研究内容

(1) 地質構造と物性の推定
物理探査技術の改良と新手法を開発し、高い解像度でガス・石油貯留層や、地震断層、地熱地帯の地質構造を調べている。例えば、波形インバージョンや地震波干渉法といった解析手法を用いて、これまで明らかになっていない地震断層を明らかにしたり、地震探査データの速度解析を自動化することでメタンハイドレートやガス貯留層の分布を明らかにする。また物理探査で得られた弾性波速度や比抵抗といった情報から、ガスの飽和度や間隙水圧を推定するための手法(岩石物理)の開発も行っている。

地震探査を用いて南海トラフのハイドレート濃集域とガス貯留層をマッピングした結果

(2) 地震断層、火山のモニタリング
地震や火山、石油・地熱貯留層を、時空間的にモニタリングする研究を行っている。下の動画は、熊本地震で、地殻内部を伝わる波の速度(弾性波速度)の変化率を示している。赤色の領域は、地震前に比べて弾性波速度が遅くなっている場所、つまり地震に伴うダメージや間隙水圧が上昇した場所を表している。一方、青色は、弾性波速度が速くなっている場所である。4月16日の熊本地震で、九州中部の断層に沿って真っ赤になり、断層周辺の地殻がダメージを受けた(または間隙水圧が上昇した)ことが分かる。特に、阿蘇山周辺では真っ赤になっており、これはマグマだまりの圧力が上昇したことが考えられる。少し時間が経つと、阿蘇山周辺では、青く(弾性波速度が速く)なる。これは噴火によってマグマだまりの圧力が解放されたことを示していると考えられる。このように、地殻内部のダイナミックな変動を、地殻内部を伝わる弾性波を使ってモニタリングすることが可能になってきた。


(3) 貯留層のモニタリング
貯留層のモニタリングでは、繰り返し地震探査が効果的であるとされているが、高価であり、不連続的に(数年間隔で)実施するのが現実的である。一方、CO2地中貯留の場合には、突然のCO2の漏洩や誘発地震に対応するため、連続的に貯留層をモニタリングする必要がある。そこで微動ノイズを使って、貯留層を連続的にモニタリングする手法の開発を行った。ベルゲン大学の協力のもと、ノルウェーのスピッツベルゲン島で取得された微動データを用いて解析を行った。解析の結果、圧入井周辺で発振される微動ノイズを使えば、人工震源を用いた高価な地震探査データと同等のデータを、微動ノイズだけを使って構築できることが分かった。さらに連続的に微動を発震し、貯留層をモニタリングする新たな装置を開発している。

(上)人工震源を用いた(高価な)方法で取得された地震探査データ、
(下)微動ノイズを用いて(安価な)方法で作成したVirtualな地震探査データ(我々の手法で得られた結果)


干渉SARの解析によって得られた石油貯留層の地表変動

(4) デジタル岩石物理を用いて物理探査データから定量的な情報を抽出する試み
物理探査で得られた弾性波速度などのデータから、物性や応力を推定する際には「岩石物理」を用いることが多い。この岩石物理を用いた方法では、理想化された間隙形状(クラックなど)を仮定して、弾性波速度から物性を推定することが一般的であった。しかし貯留層の特性を正確に評価するには、不均質な天然岩石の間隙形状の導入が必要となる。我々は、この問題を解決するため「デジタル岩石物理」と呼ばれるツールの開発と、その拡張を進めている。岩石をデジタル化し、それに対して流体シミュレーションや弾性波動シミュレーションを適用することにより、その岩石の浸透率や弾性波速度を計算することができる。さらに、様々な岩石の流体挙動特性(浸透率)と、弾性特性(弾性波速度)を関係付けることも可能となる。

(a)砂岩のデジタル岩石、(b)デジタル岩石の中を流れるCO2の挙動、
(c)CO2の挙動を考慮した鉱物化モデリング結果


(5) 地球外惑星での物理探査
地球外の惑星や衛星において、地下空間を物理探査する手法の開発を行っている。宇宙での探査は、将来の基地建設や資源開発の点で重要になると考えられる。具体的には、無人の着陸船やローバーに簡易な探査装置(地震計など)を取り付け、月面や火星(その衛星)の表層周辺の地質構造と物性を調べる研究を行っている。

(6)岩石の進化過程の解明に向けた階層型デジタル岩石物理化学モデルの開発
岩石や断層の水理・弾性特性については、これまで個別のスケールで議論されることが多かった。しかし岩石や断層の発達過程は、分子スケールの化学反応、間隙スケールの流体挙動、フィールドスケールの間隙水圧分布といった要因が複雑に関係し合っている。本研究では、分子スケール・間隙スケール・フィールドスケールの水理特性と弾性特性をモデル化し、それらを練成させた階層型シミュレーションを実施する。それにより分子スケールの特性が、フィールドスケールでの水理・弾性特性に与える影響を調べる。さらに鉱物化を組み込むことで、水理特性と弾性特性(各階層)の間にある複雑な関係を明らかにし、それらが断層の進化過程(時間発達過程)に与える影響を調べる。最後にシミュレーションで得られた断層の強度回復過程を実際の地震(余震の時間変化)と比較し、断層の強度回復プロセスのモデル化を目指している。

各階層で用いられるアプローチ

(7)人工知能の地球科学への導入
人工知能でビッグデータを解析し、重要な情報を抽出する試みが近年注目されている。囲碁や将棋の勝負で、コンピューターが人間を打ち負かしたことは大きな話題になっている。人工知能の成長は目覚しく、これまでコンピューターには難しいと考えられていた創造的な作業も、実施できるようになってきている。このような状況の中で、地球内部の挙動を検出するために取得された大量のモニタリングデータ(例えば地震波形データや温度データ)に対してニューラルネットワークを適用し、地球内部で生じている複雑現象を深く理解することは自然な流れである。我々は、ニューラルネットワークを用いて、地震断層や火山噴火、CO2地中貯留・地熱発電といった貯留層工学に関する大量のモニタリングデータから重要なシグナルや異常を精度良く抽出する手法の開発を行っている。ニューラルネットワークを用いることで、これまでは解釈が難しく積極的に利用されてこなかった情報を有効に利用することが可能となる。